
※本記事は住宅WEBマガジン「Daily Lives Niigata」による取材記事です。(取材時期:2025年11月)
アイスクリームづくりのために新潟に移り住む
今回取材に訪れたのは、新潟市郊外の集落に立つ築50年ほどの民家。
2025年の6月にリノベーションを終えたこの家で、青柳万凜(あおやぎまりん)さん・萌々(もも)さん夫婦が暮らしている。
夫の万凜さんは栃木県出身、妻の萌々さんは新潟市東区出身。共に1994年生まれのお二人は、東京や海外で働いた後、萌々さんの出身地である新潟市に2022年に移住した。
東京では万凜さんは広告・マーケティング業界で、萌々さんはグラフィックデザイナーとしてキャリアを積んできたが、アイスクリーム屋さんを始めるために新潟に移住したという。

アイスクリーム屋さんを始めたきっかけは、農業を営む萌々さんの祖父母から送ってもらっていた『B品』と呼ばれる野菜や果物の市場価値の低さに課題を感じたことだったと青柳さん夫婦は話す。
形が個性的なだけで味はしっかり美味しい農産物を活用するにはどうすればいいのか?課題解決について考えていく中でアイスクリームに辿り着いたという。
また、万凜さんはオーストラリアで、萌々さんはデンマークで暮らした経験から、乳製品アレルギーやヴィーガンの人でも楽しめるプラントベース(植物由来)のアイスクリームを作ることで、日本でもより多くの人にアイスクリームを食べる選択肢を提供したいと考えていた。
新潟は豆乳の原料となる大豆の生産が盛んで、野菜や果物の生産者との距離が近い。プラントベースのアイスクリームを作る上での条件も良いことが、新潟で起業を決めた理由だったという。
そうして、MY NAME IS ICE CREAMという名前のアイスクリームブランドを立ち上げた。

新潟市の市街地を離れ、のどかな郊外へ
2022年に東京から新潟市に移り住んだ青柳さん夫婦は、賃貸の集合住宅に暮らしながら店舗を持たずにポップアップ(イベントなどで短期間オープンするショップ)という形でアイスクリームの製造・販売をスタート。
その後、2023年8月に新潟市西堀通にオープンしたSEIRANKANで実店舗での営業を開始した。そして、翌年2024年11月にSEIRANKANでの営業を終了。現在青柳さんが暮らす民家のリノベーションに着手した。
「SEIRANKANでお店をやっている時に、お店をたたんで住む場所も移動しようという話になりました。その際に新しく建物を建てるのではなく、今ある古民家をリノベーションして住むのが自分たちのライフスタイルに合っているだろうと思いました。それに、アイスクリームの製造室もある程度の広さが必要になるので、新築だとコストが大きくかかってしまいます。それで、なるべく状態のいい古民家を探し始めたんです」と万凛さん。

なるべく自然が感じられて、田んぼや畑があるエリアに絞りながら見つけ出したのが、300坪の敷地に立つ築50年ほどの物件だった。
「いろいろな古民家を見てきた中で、ここは状態も良く、製造室をつくれるくらいの広さもありました。持ち主さんも感じのいい方だったので、ここなら気持ちよく暮らしていけると思ったんです」と万凛さんは話す。

古民家の改築を手掛けるAg-工務店&JOYN CRAFTSとの出会い
その後、萌々さんの親戚に紹介をしてもらった工務店がAg-工務店とJOYN CRAFTS(ジョインクラフト)だった。ちょうど秋葉区で古民家をカフェにするリノベーション工事を行っている最中だったため、現場見学に訪れた。
「施工の様子を見させて頂き、JOYN CRAFTSの代表の五十嵐さんとお話しさせて頂いて、この工務店さんだったら安心してお任せできそうだと思いました」(万凛さん)。
五十嵐さんは「その古民家の現場はこの家と共通点が多くありましたし、その前にも古民家を美容室に改築する工事をしていました。ある程度古い民家の場合は課題や直すべきところが共通しているんですよ」と話す。

また、設計においては万凛さん・萌々さんの友人の建築士・関口幸汰(せきぐちこうた)さんに相談していたという。
「幸汰には物件購入前に建物を見てもらって、その後はリモートで打ち合わせをしていました。最初は元々の間取りを大きく変えずにリノベーションをしていくものだと思っていたんですが、『自由に変えていくことができるよ』とアドバイスをもらい、どういうふうにしたらいいかをひたすら一緒に打ち合わせを重ねました。
特にこだわったのはLDKの壁をアールにしたことですね。大きい建物で全部を断熱することが難しかったので、このアールの壁の内側にあるLDKや寝室、水回りなどの居住部分だけを断熱して囲うようにしています」(万凛さん)。

「お二人から『生活感のない家にしたい』という希望があり、それを実現できるように話し合っていました。アールの壁もそこから生まれたものですね。設計の自由度が高い建物ですが、平屋で床面積が250㎡もあるのでコストのバランスをどう取るかが課題でした」(関口さん)。

玄関前を開けると合板仕上げのラフな空間が広がる
今回のリノベーションでは、外壁や屋根には手を加えていないため、外観は昔から立っている家そのままの形だ。
しかし、玄関に入ると目の前にはちょっと不思議な空間が広がっていて、そのギャップに驚かされる。

玄関までは既存の引き戸や窓、格天井がある伝統的な造りのまま。しかし、その先は下地用の合板で仕上げられた床が広がっており、目の前には同じようにベニヤで仕上げられたアールの壁がある。
左手奥は廊下と和室を一体にした25畳の大きなホール。こちらは新しく施工された塗り壁とベニヤ部分が入り混じっており、これからも工事が続いていきそうな曖昧さが残されている。


ここまでは断熱改修がされていない『非断熱ゾーン』。アールの壁に区切られた『断熱ゾーン』に入るとさらに雰囲気が一変する。
アール壁の内側につくられたリビング
ドアを開けてリビングに入ると、暗めのオイル塗料で塗装されたチークのパーケットフローリングに白い塗り壁で仕上げられた空間が広がっていた。室内には異なる素材やテイストの家具や照明が入り混じっているが、それらがぶつかり合うことなく調和している。

四角い座卓は元々この家にあったものをそのまま活用。プリンタが載せられた台もこの家にあった低めの箪笥に塗装をしたものだという。

「床材は様々なイメージがありつつも、なかなか決められないでいました。そんな時に床材店のアンドウッドさんをご紹介頂き、ショールームでいろいろな床材を見させて頂いたんです。
その中でこのチークのパーケットフローリングが僕たちのイメージに合っていました。色はお薦めのオイル塗料を教えて頂いた上で、2種類を混ぜて自分たちで塗っていったんです。なので、タオルの跡が付いていたりムラがあったりはするんですけど(笑)」(万凛さん)。

大工工事はJOYN CRAFTSの大工・波多野朋之さんが中心になって行い、Ag-工務店の大工さんも作業に加わった。
波多野さんは「古い建物のリノベーションということで、図面通りにいかないところが多いのが工事の難しさでした。既存のものを残す部分も多かったため、解体にも気を遣いましたね。


居住スペースの断熱性能を新築レベルに上げることも大事でしたし、納め方を何度も擦り合わせしながら施工を進めていきました。

苦労する部分は多かったですが、青柳さん夫婦の希望をなるべく多く実現できるように、追加費用が発生しない形で施工方法を工夫したところもあります。
例えば、キッチン前のガラスブロックは、本来左官屋さんが目地を入れて積んでいくんですが、合板を目地代わりにすることで大工工事で施工しています」と話す。

現場の塗装作業はDIYで
今回のリノベーションにおいては、床の塗装だけでなく、LDKの壁のEP塗装や、それ以外の塗り壁の塗装なども青柳さん夫婦が自ら行ったという。

そもそも施工を手掛けたJOYN CRAFTSは「JOYN(一緒に楽しむ)+CRAFT(一緒に手作り)」をコンセプトに掲げる工務店。プロでなくても比較的実践しやすい施工をクライアントにも参加してもらい、一緒につくり上げていくことを推奨している。
もちろん必要な工具や材料の選定、施工の指導をしてもらえるので、施主側は安心して施工に参加できる。
「工事に入っていた時は西堀のお店は既に閉店していたので、平日は萌々が現場に通って塗装をしていました。僕は平日はリモートで続けているマーケティングの仕事があるので、土日に二人で作業をしていましたね」(万凛さん)。

「施主が毎日現場に来るのは正直嫌じゃないかな…と思いつつも、皆さんがいつもウエルカムで迎えて下さって。塗装を手伝って頂いたり、お菓子を食べながらみんなで休憩をしたり、温かく接して頂いたのが印象的でしたし、とてもいい経験になりました」(萌々さん)。

「塗装する面積が広い建物でしたが、二人とも途中で心が折れることなく頑張ったのがすごいなと思いました。ここまでJOYN CRAFTしてくれる人はなかなかいません(笑)。
今後自分たちでメンテナンスできるでしょうし、下地処理から作業をしてもらっていたので、まだ塗っていないところも材料を手配してあげれば自分たちで塗装できるでしょう」(五十嵐さん)。

「果てしない作業だなと感じて、途中で心が折れそうにはなりましたね…(笑)。それでもやり切るしかないか…という思いでやっていましたし、幸汰が手伝ってくれたのは大きかったです。
あと、職人さんたちがみんな楽しそうに仕事をされていて、現場の雰囲気がすごく良かったですね。僕たち素人が作業に入ることでスケジュールも伸びてしまうのに、快く合わせて頂けたこともありがたかったです」(万凛さん)。

「最後の方は、もうすぐ終わってしまうんだ…と思って少し寂しい気持ちになりました」(萌々さん)。
庭木に囲まれた気持ちいい日常
そうして自らも施工に携わりながら改築を行った住まいが完成したのが2025年の6月。それから5カ月住んでみて、どんなことを感じているのか伺った。

「僕は栃木県出身で、その後に東京に住み、3年ちょっと前から初めて新潟で暮らし始めました。新潟は天気が悪い日が多かったり冬寒かったりで、正直ポジティブに捉えられない部分もあったんです。
でもこの家に引っ越してからは『最高!』っていう感じですし、『家に帰ってきたい!』という気持ちになります。やはり、この開けた土地と広い古民家、自分たちが好きな空間というのは、日々の満足度が全然違いますね。
朝起きて窓を開ける時や、庭木を眺めながら歯磨きをする時間や、家の中を歩き回る時間なども気持ち良くて…。こんなにも気分が変わるとは思わなかったです」と万凛さんは満足そうに話す。

「庭の木々が季節によって表情を変えていくのを見て、『これがキンモクセイだったのか』とか発見があるのも面白いですね。木の枝を切って部屋に飾るのも楽しみになっていて、そういう暮らしができるようになったのも家を所有する良さなのかなと思いました」と萌々さん。

職住一体の暮らしということで、働き方はどうなっているのだろうか?
「まず朝起きて二人でその日発送するアイスの準備をします。その後は僕はマーケティングの仕事に、萌々はデザインの仕事に取り組みます。僕たちはアイスクリームの製造をしながら、それぞれの仕事をWワークでやっているんですよ。なので、アイスの製造をする日もありますし、それぞれの仕事をしている日もあります。

朝から夜の7~8時まで仕事をしていることが多いですね。それぞれ違う場所で作業をしていることもあるので、二人で家に居ながら全然会わない時もあります(笑)。昼ごはんはパパッと食べるので、別々の時もありますし。その代わり、夜は一緒に料理をしてゆっくり食べています。近所に飲食店がないので、家で食事をすることが増えました」(万凛さん)。
「デザインやマーケティングの仕事をしているので、アイスをオンラインで販売していくための新しいアイデアが得られますし、自分たちがブランドオーナーとして事業を行っていることでクライアントの気持ちを深く汲み取ることができています。休みなく働いていますが、開放的な家で暮らしているから、リラックスもできているのかなと思います」(萌々さん)。

店舗で営業をしていた頃は小さな作業スペースでアイスクリームの製造をしていたが、新しい住まいには和室を改築した13畳のアイスクリーム製造室もつくられた。

「以前は二人でぶつかり合うようにして作業をしていましたが、今は広い空間で余裕をもって作業ができています。波多野さんに造って頂いたテーブルもすごく使い勝手がいいですね。旬の果物や野菜を使ってアイスをつくる時期は短期間で製造をしなければならないのでバタバタしていますが、新しい製造室になり作業効率がかなり良くなっています」(万凛さん)。

整ったアイス製造室で新たな挑戦への準備を進める
最後に青柳さん夫婦に今後やってみたいことを伺った。
「店舗をやめたのでアイスクリームの販売はオンラインと飲食店さんへの卸しが中心になっていますが、また外に出て売っていきたいですし、もっと多くの人にアイスクリームを届けていきたいですね。
今そのための準備をしているところですが、やはり家の中に製造室ができたことで、新しい挑戦がしやすくなりました。作業性の良さはもちろん、移動がなくなったことで、時間をセーブできているからです。
暮らしの面では、まだ手を付けていない和室があるのでそこに手を加えていきたいです。敷地内には蔵もあるので、そっちも掃除をして何かに活用したいですね」(万凛さん)。


デザインやマーケティングの仕事を行うクリエイターとして、そしてクラフトアイスクリームの製造販売を手掛けるビジネスオーナーとして多忙な日々を送る青柳さん夫婦。

郊外にある中古住宅は利便性の悪さがデメリットに捉えられやすいものだが、リモートで仕事を遂行し、オンラインやポップアップストアで商品を販売する青柳さん夫婦は、静かで自然あふれる環境に大きなメリットを感じている。

青柳さん夫婦の生き方から感じられるのは自由さと軽やかさ。
JOYN CRAFTSと共にリノベーションをした住まいは、その年季の入った佇まいとは裏腹にとても軽やかな空気に満ちている。

青柳様邸
新潟市
延床面積 約245㎡(約74坪)
リノベーション工事完了 2025年6月
MY NAME IS ICE CREAM オンラインショップ
MY NAME IS ICE CREAM インスタグラム
MY NAME IS ICE CREAM note
施工 株式会社JOYN CRAFTS、株式会社Ag-工務店
株式会社JOYN CRAFTSインスタグラム
株式会社Ag-工務店インスタグラム
設計 関口幸汰さん(株式会社関口恒産)
関口幸汰さんインスタグラム
